羽根邦夫Blog

”工学博士、電磁波対策製品WAVESAFE発明者のブログ”

米国の半導体輸出管理法は、IC製造のシミュレータを狙う

 トランプ前大統領は、在任中に最先端半導体技術の輸出を禁じる輸出管理法を作りました。これは国力をあげる目的であったものに、バイデン政権でウィグルやチベットや香港の人権問題が加わり、議会はさらに強硬な中国政策を要求する、という経緯が有ります。具体的には、中国への、米国の技術を用いた半導体集積回路(IC)と製造装置と設計技術の輸出を禁じたものです。
 輸出管理法は、米国企業だけでなく国外の企業にも、直接、間接に関わらず中国への半導体の輸出を禁止します。これに反すると、個人、企業、国に対する銀行口座の凍結あるいは廃止、など銀行取引が停止されます。

 この管理法は、世界の半導体回路設計用と製造方法のソフトウエアが全て米国製なので、どの国でも半導体を作って中国に輸出すれば、この法を犯すことになる非常に強力な法案です。ここでソフトウエアとは、トランジスタの製造過程をシミュレートして構造を模擬するシミュレータと、そのトランジスタを使った回路を作るシミュレータの2つです。
 トランジスタは製造方法を進歩させて、3年で長さが半分になり、同じ面積であればトランジスタ数は4倍になります(ムーアの法則)。新しい製造方法が開発されると、シミュレータのメーカーは製造条件を最適化し、その製造方法で作ったトランジスタの特性に合わせて、回路シミュレータの特性を合わせ込んでおきます。
 新しい製造条件のパラメータと、それで製造されたトランジスタの特性のパラメータは一体化されています。セットで使わないと半導体集積回路(IC)は作れません。つまり、世界中の高集積なICは米国の最新のパラメータで作れないことになります。大事なのは製造技術では無く、シミュレータの本体でもなくて、それを動かす製造方法とトランジスタ特性がセットになったパラメータ群と言っても過言では有りません
 それでももし、米国輸出管理法前に使っていたパラメータを使い続けることができるなら、中国は、禁止前の製造・設計用パラメータで、集積度の低いICや電力ICも米国の技術無しで作れるかもしれません。しかし、次の世代の半導体の開発や製造は不可能となり、電子機器や通信機器の進歩がほぼ止まります。この結果、軍需産業では、サイバー空間での戦闘やAI技術を使った兵器や、高機能の指揮通信機能が作れません。トランプさんが狙っていたのは、これなのです。

 民需産業では、年率11%で成長していたスマートフォンだけでも、100兆円市場(2019年で72兆円)での競争力をすぐに失います。ただし、そのほかの家電や情報装置の製造と輸出については、低価格の電気電子機器は最新の半導体を使う必要が無いので、影響はほとんどないでしょう。AIや自動運転機能を使う、高機能の電気自動車EVには多少の影響が有るかもしれません。
 米国の輸出管理法の罰則は、基軸通貨のドル決済を不可能にします。禁止の影響は全世界におよび、中国へ半導体を売った企業はお金が動かせなくなります。世界のどこでも事業は行えず、すぐに倒産の危機にさらされます。
 一方、中国は米国に対する「反外国制裁法」を早速に作りました。中国以外の全ての国の個人を対象としたブラックリストを作り、個人の属する家族、組織、国は、中国での商取引や銀行取引の禁止、ビザの取り消し、などがあり、自国民にはブラックリスト記載の脅迫もできます。
 両国の禁止や罰則事項は厳しいものですが、どこまで厳しく実施するかは、経済と外交の問題と合わせて変わることでしょう。従って、具体的にどうなるかは、まだ分かりません。
 2国の制裁を比較すれば、中国の元が基軸通貨でないことと、最新の半導体素子が作れなくなることで、国の輸出管理法は強力で、中国は対応する方法が無いでしょう。中国以外の企業でも、米国の意向に従うのが、国際的な企業の経営者として当然です。習近平氏の反外国制裁法は、かえって世界中の企業に中国脱出の決心を速めることになってしまいました。

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