羽根邦夫Blog

”工学博士、電磁波対策製品WAVESAFE発明者のブログ”

実用化される東芝製SCiB形リチウムイオン電池

 リチウムイオン二次電池は、半世紀に達する開発と実用化の技術開発を経た、現在最強のエネルギー貯蔵部品です。しかし、開発当初からそのエネルギー密度が高いことから、貯蔵したエネルギーを一度に放出すると爆発炎上します。この危険性が、実用化のネックで、CATL、LG、SUMSON、SKなどのメーカーが作った電池は、この点で未完成です。スマホや電気自動車は、中国、韓国、米国など、世界のどこかで毎日燃えて、死傷者を出しています。これらの事故を未だに解決できないのは、リチウムイオン電池の製品化には、ノウハウに関わるものが多いからです。
 これは、私が所属したソニー中央研究所の隣の研究室が半世紀前に行っていた、リチウムイン電池の開発での釘差しテストなどの安全性確保には、年単位の実用化研究必要でした。これらを観ていた私としても、これは科学的な知識だけでなく、研究者たちの熱意とセンスと根気と、その上に優れた研究環境が必要であり、簡単なことでは無いことがよくわかりました。
 そんな中で、GSユアサの作ったリチウムイオン電池は、蒼龍型潜水艦の11番艦から採用されました。スマホやEVに比べれば、潜水艦にリチウムイオン電池を使うには、危険性ゼロの全く違うレベルの安全性が必要です。電池を製造するGSユアサ、採用する防衛庁、そして潜水艦乗員たちは、それぞれに大変な決心が必要だったでしょう。尊敬以外の何もありません。

 この潜水艦用の高信頼の電池の後に、東芝も信頼性と高い入出力負荷に耐えるリチウムイオン電池を実用化しました。潜水艦に比べれば大きなニュースにはなっていませんが、新幹線N700S系に採用されているSCiB型リチウムイオン電池です。この電池は潜水艦用電池の安全性とは比べ物になりませんが、それでも石橋を叩いても渡らない、天下のJRの御採用ですから、自動車用リチウムイオン電池とは比べられないほどの安全性と特性を持つでしょう。
 東芝製SCiB型電池は2015年には電力会社と組んで実証試験を行っており、十分な実績があり、N700S系には先行試作が2018年、量産は2020年からです。まだ新品ほやほやですが、勿論事故報告は有りません。この電池は、新幹線が事故で停電の時に、乗客を安全に運ぶのが目的で、小型にも拘らず大出力が必要です。

 ここで、SCiBとはどんな意味なのか、負極のシリコンSと炭素Cの含有が今までと違うのか、などと期待をしましたが、がっかりでした。SCiBとは、Super Charge ion Battery(超電荷量の電池)程度の意味で、理系の人間は少しもワクワクしません。こんな文系ダマシの名前付けをするようだから、会社が傾いているのですね。理系がワクワクして、文系がびっくりする様な名前が無いと、製品開発の技術者がコスト計算をする文系の人間を引き込めません。会社も製品も埋もれてしまいそうです。
 とは言え、SCiBは6分間で80%の大電流の充電、ということは大電流の放電も可能で、充電率0%~100%までの深い充放電が可能、と言う優れものです。これなら自動車用に使っても良い特性です。SCiBを使えば、充電スタンドの容量が大きければ、充電待ちの時間が1桁短くなります。さらに問題の発火は、電極間がショートしても短絡部分の電極材料が絶縁性に変わるので、電池自体の発火の危険性が大幅に減ります。
 この様にリチウムイオン電池の実用上の課題を大幅に減らしたSCiBは、スズキのワゴンR、他、日産のハイウエイスター、三菱のekクロスなどに採用されています。まだ軽自動車ばかりですが、大型車への採用はどうなるか観守りましょう。

 日本製のリチウムイオン電池を使ったスマホやEVが燃えないのは、半世紀前のソニーから始まり、潜水艦や新幹線など、極度に信頼性が求められる製品に長い時間と高い開発費をかけて実用化に努力をしてきた実績が有るからです。この間に得られた知識と知恵などは、特許権が切れてもノウハウとして日本人技術者の間で保存されています。
 優秀な人材の多い東芝です。中国や韓国から彼らを引き抜かれたりしない様に、会社は頑張って欲しいです。また、最近JRへ入社する中国人社員が多いとのことです。東芝だけでなく自動車会社もJRも、守秘には十分お気を付けください。SCiBは電車や自動車だけでなく、潜水艦にも使える技術ですから。

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