プラスティックごみ(その3)イルカの化学物質汚染と不妊症
英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に、バンドウイルカの皮膚と脂肪に、水銀や毒性汚染物質が高濃度に含まれている、と発表されました。バンドウイルカは日本近海にも生息しており、注目すべき情報です。対象となったイルカは英国とフランスを隔てるイギリス海峡に生息する海洋哺乳類で、特に母乳中PCBやDDTなどの毒性物質が高濃度で含まれ、多数の海洋哺乳類の間で出生率が低下していることとの関連が指摘されています。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)と呼ばれる化学物質群は、安定で自然界では分解され難く、代を重ねてこのような「生物蓄積」が起こりやすいものです。PCBは塗料や難燃剤、さらには電気配線や油圧油などさまざまな工業製品に使用されている。脂質として生体内に取り込まれ蓄積され、徐々に塩素剤としての毒性や、偽ホルモンの作用をおよぼして特に胎児の性徴に影響します。
環境中に長期間とどまる「残留性有機汚染物質(POPs)」となる工業用化学物質は、1970~1980年代に大半の国で使用禁止となりましたが、今なお広範囲の海洋生物で検出されています。POPsは、親油性で脂質に多く含まれます。食物連鎖では、プランクトンから始まって連鎖の上位に進み、最上位捕食者に至るまでの間に濃度が高まります。最上位捕食者には、マグロなどの脂肪が多い魚を経て、ヒトやイルカやシャチなどの哺乳類がいます。
海に棲む哺乳動物の行動の異常や疾病に有機塩素化合物がどこまで関わっているのか。因果関係を裏付ける明確な証拠は得られていませんが、数種の鯨類や鰭脚類(アザラシやアシカなど)では PCB や DDE による雄性ホルモン (テストステロン) の撹乱や薬物代謝酵素系の誘導が報告されており、野生の高等動物に毒性影響があらわれていることを示唆しています。
私達ヒト類は、PCB汚染に対してはカネミ油症としての経験が有ります。PCBは女性に対して出産や性機能に障害をもたらしました。男性にとっても肝機能障害など多岐にわたりました。同じ哺乳類の雌のイルカは、妊娠ができず、生まれた子供あ発育不全となります。雄イルカも被害を受けます。
プラスティックごみとの関係
マイクロプラスティックMPは油性の化学物質に対する吸着力が強く、海中でのPOPsを濃縮する役割を担います。海水中に浮遊するMPは微生物や動物性プランクトンに取り込まれ、順次小型の魚やアミ類、中型、大型、哺乳類、と濃縮されてゆきます。MPはPOPs濃縮の最初の段階なので、是非ともこの段階での化学物質汚染の連鎖を止めなければなりません。私たちにできることは、プラスティックをごみにしない様に気を付けることです。