中国製偵察気球の操縦方法
皆さんは、今年の2月に中国の偵察衛星がどのように米国まで飛んで来て、ICBMや軍事基地の上空を選んで不審な飛行をしていたのか、ご興味がありませんか。
BBCによれば、2月7日にF22戦闘機に撃墜され、サウスカロライナ沖の水深14メートルの場所に沈んだ中国製の偵察気球は米軍によって回収され、「全てのセンサーや電子機器を含む重要な残骸を発見した」と13日に発表されました。しかし、発表された写真には気嚢のポリエチレンフィルムの塊以外の写真以外は無く、電子機器類の写真は有りませんでした。
外見から目立つのは太陽電池パネルで、パネルは写真によって角度が異なることから、電池面を傾け太陽に追尾して効率的に発電をしていたかもしれません。また、高高度を飛ぶ気球は球形で、気圧が低い上空では気嚢は球形に膨らみます。
中国から米国までは偏西風に乗ってきましたが、北極を中心とする円を描いていませんが、これは偏西風が蛇行するからでしょう。この後米国内の空軍基地やICBM基地の上を通る複雑な飛行をしてから、東岸に抜けたとところで撃ち落とされます。皆さんは、気球は風任せで自由に動く事は出来ない、と思われるでしょうが中国の偵察気球は“かなり”自由に動いていたようです。そこで気球を自由に動かす方法の説明をします。
気球を西から東に向けて飛ばすのは、高度12,000mを最大で時速360kmで流れる偏西風に乗せれば可能です。しかし、今回の気球の様に南北に動かすのは、気球の高度を変えて南北に流れる大気に乗ます。この方法は、もっと低高度ですが、動力を持たない熱気球が気嚢内の温度を変えて浮力を変化させて、希望する向きの風を選んで決められた地点を通過する競技が有ります。
今回の中国の気球で、まず注目するのは気球に積まれている太陽電池パネルの面積が非常に大きいことです。気球は直径60メートルで重さは1トンとのことで、目算すると太陽電池パネルの面積は約20平方メートルで、発電能力は毎時3kWです。高度1万メートルでは雲は無く、冬の日照時間を8時間とすると1日に24kWhを発電し、蓄電して使えば毎時1kWの電力を使えます。積んである電子偵察機器で電磁波の傍受と光学撮影を行い、データを上空の衛星へリアルタイムで送信したとしても、十分すぎる電力です。余った電力は気球の操縦に使われたのでしょう。
気球の全重量1トンは驚きの重さですが、内訳は気嚢と太陽電池と操縦系でしょう。直径が60メートルの気嚢は、厚さが5ミクロンメートルのポリエチレン膜でも0.5トンに達します。日本製の膜はもっと薄いですが、中国製ではこの程度でしょう。電波傍受と写真偵察と、衛星との通信の電子機器の重量は数キログラムですが、太陽電池パネルを合せて、100kg程度でしょう。
余った重量は気球の操縦用です。気嚢内のヘリウムガスを電力でポンプを駆動して圧縮してボンベに貯めて、気嚢内のヘリウムを増減したのでしょう。ちなみに、昔はバラストを捨てるかガスを逃がすか、で高度を変えましたが調節する回数に限りが有ります。
気球を下降させるには、1トンの浮力を得る約3,800立方メートルの1%分を減らすとします。つまり10kg重くするわけです。高度1万メートルの気圧は0.26気圧ですから、実質は38×0.26=地表圧力で約10立方メートルです。このガスを10気圧に圧縮すると1立方メートルになる。つまり直径が1.2メートル強の球形ボンベに詰め込むのです。
カーボンファイバーで10気圧に耐える球形のボンベを作るのは可能で、400kgはこのボンベと電力消費の少ないポンプとリチウムイオン電池の高度変化機能にあたえて操縦します。直径を1.6メートルにすれば、2%のヘリウムを増減させて20kgの重さを変えて素早く上昇と下降ができます。大電力はこのポンプを駆動するためでしょう。米国が発表した中国気球を回収した写真には、気嚢以外の部品は写っていなかったので、別の仕掛けかもしれません。
気球の操縦にもう一つ必要なのは、高度ごとの風の予測です。高層の風向と風速は一般的にゾンデを飛ばして実測します。米国や日本は常時ゾンデを飛ばして高層の気象観測を行って公開しており、これを使えば気球を操縦できます。中国はこれを使ったのではないでしょうか。
この図は高度6000mの天気図で約10,000mの天気図も有ります。これまでは、高層気象は地上の天気予報の精度を高めるためでしたが、これからは軍事機密になるでしょう。余談ですが、第2次大戦前のアマチュア無線は、電波状況と天気の話し以外は商業行為になるので控えていました。しかし、戦争がはじまると敵国に空襲のデータを与える、としてこれも禁止されたようで、それが再来するかもしれません。