羽根邦夫Blog

”工学博士、電磁波対策製品WAVESAFE発明者のブログ”

リニアモーターカーの磁界

リニアモーターカーの浮上と走行には車内と車外のコイルで作った磁力を使います。車内には超電導コイルがあり、静磁界を出し続けます。車外にはガイドウェイと呼ばれる構造に、推進コイルと浮上・案内コイルの2組のコイルが進行方向に沿って並べられています。車内の超電導コイルの静磁界は、ガイドウェイの浮上・案内コイルに電流を誘起して車内コイルと浮上力と横方向の位置を保持する力を作ります。進行方向の力は、電車が近づいた時だけガイドウェイの推進コイルに外部から速度に応じた電流を流して、超電導コイルの静磁界との間に生じる進行方向の反発力と吸引力を使い、加減速します。

浮上・案内コイルは浮上と側面のガイドウェイとの適正距離を保ち、推進コイルは前進と減速の力を生じます。すなわち、2組の外部コイルは電車が来なければ磁界を作りませんが、車体側の超電導磁石の影響を受けた時だけ、速度に合わせた周波数の磁界を発生します。車体側の超電導コイルは静磁界で変動しませんから、これに合わせて車外のコイル類は浮上と走行の磁界を作るので、乗客が受けるのは静磁界だけです。乗客が静磁界を受けるのに対して、近隣の住民は通過時にガイドウェイコイルの作る速度に比例した長さのパルス状の反転する磁界を受けます。時速500kmの速度は秒速139mですから、外部のコイルの幅が5mであれば1秒間に28回コイルの作る磁界は反転して、パルス磁界の周波数は28Hzとなります。住民の受ける磁界は商用の50Hzかそれよりも低い周波数の磁界を電車が通り過ぎる間の時間受けることになります。

次に、外部から車体への電力供給方式です。従来の架線とパンタグラフを接触させる有線方式は速度が速過ぎて使えません。軌道の中央に置いたコイルと車両側のコイルを磁気結合して、無線給電を行います。原理はトランスと同じですが、トランスの場合は鉄心があるので、外部への磁界のリークは少ないですが、この場合は10cm以上離れた空芯トランスですから漏洩磁界を生じます。

参考として、JEIC(電磁界情報センター)が発表した、リニア新幹線の浮上と走行の原理、および車内と車外の磁界強度の資料です。http://www.jeic-emf.jp/assets/files/pdf/jeic_kun/050-051.pdfは、このpdfはJRが発表した磁界強度を転載したもので、ICNIRPの職業的被曝の許容値も記されています。しかし、私達には一般公衆向けの規制値を守っているか否かが問題です。JRから発表されている走行系からの磁界は、ICNIRPの職業的被曝量の規制値をクリアしていますが、一般公衆の許容値を大きく超えています。リニア新幹線は開発中ですから、今後の対策で、この値を低下することは可能でしょう。新幹線での磁界測定では走行系のインバータとモーターからの磁界をほぼ完ぺきに防ぐ技術が有るのですから、実用化段階ではJRはこれを生かすことが可能と思います。なぜ、JEICは一般公衆用の規制値を載せずに職業的被曝量を載せると言う忖度をしたのか残念です。

ちなみに、職業的被曝とは一般公衆よりも多量の被曝をしても良い、と言うことではありません。管理された条件下での被曝であれば値がはっきりしているが、一般公衆はどの様な環境で被曝するか予測できないため、被曝量を低く設定します。リニアモーターカーの試験車両での被曝は、定位置に座ると言う管理された条件下であるため、ICNIRPの規制条件以下と考えて良いと思います。JEICはこの点を明示して、現状は職業的被曝条件しか満たさないが、営業運転時には一般公衆被曝以下にすることを目標とする、と書けば公正さが担保できたことでしょう。JRを含めて公正な組織とするには、あとひとつの説明が足りません。

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