もしトラがほぼトラに
米国は世界最大のGDPと軍事力を持ち、ヨーロッパ諸国と日本およびオーストラリアと強い同盟関係にあり、世界各国に対して政治と経済で強い影響力を持ちます。今年2024年11月の大統領選挙では、現大統領の民主党所属のバイデン氏と、前大統領の共和党所属のトランプ氏の一騎打ちとなるでしょう。
現大統領のバイデン氏はリベラル色の強い民主党に所属し、強い影響を受けています。民主党は国際政治ではグローバル化、つまり国境を無くして貿易を拡大する政策であり、国内政治は国境を開放して不法移民でも自由に入国させ、人種と男女の平等を求め、LGBTと妊娠中絶に賛成で、環境問題重視です。これに対して前大統領のトランプ氏は共和党に強い影響力を持ち民主党の政策の逆を主張して、反グローバルのアメリカ第一主義で不法移民に反対ですが、妊娠中絶への態度は決めていません。
11月の選挙では、前回選挙でのバイデンジャンプや異常な郵便投票率が無ければ、現在の支持率が平均49%のトランプ氏が、43%のバイデン氏に圧倒的に勝算が有ります。これまでは「もしトラ」で、「もしトランプが大統領になったら何をするか」が話題でした。しかし予備選挙のスーパーチューズデイではトランプ氏が圧倒的に勝利したので、11月の本選挙の予想は「ほぼトラ」になっています。
「ほぼトラ」では何が起こるでしょう。アメリカ第一主義のトランプ氏は、まず国内問題として中断していた国境の壁を完成と、民主党が行っていた対中国の貿易関係の戦略の見直しです。
まず、中国の先進技術を使う半導体製造の制限と逆に低レベル技術の半導体製造は緩和、中国製EV輸入制限としてメキシコとカナダを使った迂回生産の封鎖、米国内での中国人資本の農業生産の制限、などのアメリカ第一主義の実施。そして、多額の出費を伴うウクライナ戦争の終結、中東ではアブラハム合意を復権してイスラムとユダヤの紛争を鎮めます。下の写真は第1期トランプ政権が最初に行った対中戦略の覚書の署名で、これが再現します。
この他にもう一つの火種の台湾問題への対応は、安倍晋三氏亡き後では日本にとって過酷な状態になるかもしれません。この安倍氏のいない日本外交の穴を埋めようと、麻生太郎自民党副総裁がトランプ氏に会おうと渡米しましたが、会う事ができませんでした。トランプ氏は安倍氏以外の日本の政治家は民主党寄りとして、信用していないようです。
トランプ氏の頭の中では、ウクライナも台湾も同じ様に米国の競争国が、味方の国を攻撃(しようと)しているだけで、助ける義理は有りません。米国の利益、という観点から判断するので、たとえ味方であっても安心はできません。
ウクライナ戦争の終結は、ウクライナへの支援を強制的に終了し、米国の石油とLNGの増産でロシアの資金源のLNGの輸出を先細りさせて、共に資金源を遮断することで“痛み分け”で終結しさせるでしょう。
中東のイスラエルとハマスの戦争は米国にとって出血ポンプで、イスラエルのネタニヤフ首相の個人的な戦争です。彼を抑え込めれば、中東は平和になり石油価格も安定します。石油の増産はアブラハム合意による中東和平でサウジアラビアなどの産油国も恩恵を被るでしょう。問題はネタニヤフ首相をどう収めるかですが、トランプ氏はアブラハム合意を取りまとめているので、何とかするでしょう。
米国内の石油増産は、選挙運動の初期に米国の物価高を抑えて欲しいとの庶民からの希望に答えて、民主党が禁止している国産石油の生産を約束しています。これが実現するとガソリン価格は下がり、産油業者も潤う、という一石二鳥効果が有ります。この石油の増産に筋を通して、EV販売と脱炭素事業はさらに冷遇されることになります。
最後に、台湾戦争がもし起きても、トランプ米国は台湾を助ける義務は有りません。この状態を恐れて、これまで日本の政治家の中で先が見える人物と、非民主党の米国の有識者は、”台湾有事は尖閣有事”と、米国を牽制してきました。同盟国であっても、自国に有利でなければ助けてくれません。先に述べた麻生副総裁の渡米や、岸田内閣になって防衛費の増額をうたっているのは、具体的に中国の軍事力増強が度を過ごしているので、それへの対抗と、もしトラへの予防措置だったのではないでしょうか。
蛇足ですが、「もしバイデン」、になったらどうなるでしょう。ウクライナとイスラエルは戦争を続けて米国とEUは疲弊し、中国は余裕を得るでしょう。米国の主要都市は治安の悪化で機能を失い、自衛組織が各地で蜂起します。国力の落ちた米国に対して、余裕を得た中国は実質的にグアム以西の西太平洋に勢力を伸ばし、日本は中国の顔色をうかがう様になります。