AIはカイゼンに劣る
AIは人間からの問に回答をします。コンピュータは数式を解くだけであれば、100%正解を出せます。さらにAIは、人間からの問に対して持っている多量、多種類のデータの中から最も正しいと思われる答えを探し出して、回答をします。
例えば、全く知らない道を歩いていて、T字路に突き当たった時に右に行くか左に行くか、をAIコンピュータに尋ねたらどうなるでしょう。AIは目的地までの地図を参照して、最も近い道を選ぶから始まり、途中の道の険しさを加味していなければ山道を直線で上り下りする細い山道を選ぶでしょう。
私が学生時代に習った作業の最適化実習は、実験でちょっと複雑な作業をストップウオッチで時間を計りながら、どんな手順が良いかを見つけ出すことでした。レポートは、その内容を検討することだったと思います。今にして想えば、最後の検討でより優れた手順を作業分析の結果として考え出すことが、授業の目的だったでしょう。
ここでAIは、この様な作業の最適化を命じられると、学生が探し出す一番短い手順を極めて短時間で見つけ出せますが、レポート書きで望まれたより優れた手順を考え出すことをしません。もしこの考え出しを命じられたら、現状のAIに組み込まれたプログラムでは創り出すことは難しいでしょう。
しかし、トヨタ自動車が始めた各種改善、すなわちカイゼンとカンバンはこの作業分析と新手順の創出を、作業に関わる全員が行います。この改善は昔から日本だけではなく世界中物造りの現場で行われてきたはずです。しかし、ドイツのマイスター制度では新案は伝統の下で圧殺され、中国や韓国の儒教でも新規なことは禁じられました。ドイツは未だにこの影響が残り新技術採用には莫大な時間がかかり、中韓は新しいことは真似や盗みで簡単に手に入れます。

さて私たちは、このAIの持つ本質的な弱点を知らなければなりません。つまり、将棋や碁では思考の過程が沢山有っても単純なのでAIは優れていますが、物作りは思考の過程が複雑な上に創出が不可欠なのでAIは向きません。政府は、AIに過剰に期待を寄せていますが、AIには株価という単純な指標の予想が出来ない現状では、経済政策の効果予測もできないことであり、政策という複雑なことがらを任せることは出来ません。
やはり、カイゼンで新風を吹き込みながら、昔ながらにモノヅクリを尊ぶ文化を育てなければ、経済は進みません。
