EV車はAMラジオが雑音で使えない
ワシントン発、ロイターの5月17日電子版によれば、米国の上下院で、超党派で自動車の標準機能として、AMラジオの搭載を義務付けする法案が提出しました。なぜ義務化するかと言えば、最近は多くのEVがAMラジオを付けていないからです。米国の様な広大な国では、VHF帯を使うFMラジオ放送の電波は地平線以下には届かないので、緊急時に使える公的放送の手段を残しておきたいからでしょう。これは、EVの走行中はAMラジオは雑音が酷いからです。
EVの雑音は、電池、モーター、モーターを駆動するインバータ電源が出す、数キロHzから数十キロHzの電流が作る漏洩磁界とその高調波が、AMラジオに雑音として受信を妨害するからです。このインバータにより交流のパルス電力を作ることは、自動車や電動自転車だけでなく、電池駆動の全ての電子機器(時計、スマホ、PC)、モーターを使う大型製品(冷蔵庫、洗濯機、ハイブリッド自動車)、大電力の家電製品(電子レンジ、IH調理器、TV)、が行うので、大なり小なりAM放送を妨害します。
ここで問題は、EVの漏洩磁界はラジオを妨害するだけでなく、人体も同時に被曝していることです。
これ等のインバータ回路が作る交流磁界の強度はメーカーも測定しており、当然WHOの規制値以下でしょう。しかし、新型コロナで信用を失ったWHOはここでも信じられない動きをしています。WHOの磁界強度の規制値の決定方法は非常に荒っぽく、人体に電磁波を浴びせた人体実験(信じられない!)で、被検者が熱感や異常を感じる強度の、100分の1程度の値とするものです。この規制値の決定方法の問題は2つ。被検者が成人であることと、短時間被曝条件であり、日常的に弱い磁界を被曝する条件ではないことです。
日本では、高電圧送電線下のWHO規制値の1000分の1の微弱な磁界中に住む、10万世帯の小児がんと白血病の発病率が約2倍となる疫学的調査結果が有ります。具体的な発病者の人数は、計算をすると年間で数名ですが、このことをWHOは認めており、実際に障害は生じているのです。
兜真徳博士の論文:生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究(生活・社会基盤研究のうち生活者ニーズ対応研究、京都大学基礎物理研究賞研究会報告書「電磁波と生体への影響」、研究会報告)https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/97786/1/KJ00004705756.pdf
また、50Hzまたは60HzのWHO規制値の約千分の1の0.4µT(マイクロテスラー)を日常的に被曝すると、小児はがんや白血病になる確率が約2倍になりますが、同じように、50Hzの磁界は、成人男性の精巣の精子を作る機能を阻害し、精子濃度の低下による不妊症を起こします。この様に、WHOの規制は、私達の生活には即しておらず逆に、多くの企業はWHOの規制値を免罪符として使っています。WHOの規制値よりも、実際の障害に注目すべきです。
それでは、対策を考えましょう。インバータ方式の電源は、生活から自動車まで身の回りの電気・電子製品の大半に使われています。これらの磁界による人体の被曝を減らす方法は、まずこれらの機器の電流を減らして磁界を減らすこと、次にこれら電源を生活空間から磁気遮蔽材で隔離することです。
これはEVでも同じで、AMラジオの雑音を減らす方法は、電池からモーターまでを磁気遮蔽することが最も現実的であり、これは乗員の磁界被曝を減らすことにもなります。そのため、私の属するグループでは、軽量で低価格の極低周波帯用の磁気遮蔽材の開発と、実用化の対象を検討しており、お役に立てるかもしれません。
かつて米国はマスキー法による排気ガス規制と、ラルフ・ネイダーによる自動車の安全対策の法制化で自動車業界に衝撃を与えましたが、結果的に世界の自動車の近代化に貢献しました。今回のAMラジオ標準化は、EVによる健康障害を防ぐ隠れた一手となり、EVの安全化に役立つかもしれません。